原告 国立市
被告 上原公子
意見陳述要旨
2012年5月17日被告訴訟代理人弁護士 田中 隆
東京地方裁判所民事第2部 御中
記
第1章について陳述します。
本件は、政策実行をめぐって責任を問われた国立市が、あろうことかその責任を首長個人に転嫁しようとする事案です。
住民に選出された首長は、住民意思を体して政策決定を主導し、政策実行にあたる権限と責任をもっています。景観保護を託された首長は景観維持と営業活動の間で中立ではあり得ず、諸方面への要請を含めて景観保護にあたることは、責任の履行ではあっても権限逸脱ではありません。
首長の交代による政策変更があれば、新首長による政策実行は一部関係者の利益と衝突します。政策変更は当然だが、関係者の信頼の保護が必要になることがあり、補償措置が講じられていないと「補償にかわる賠償」を命じられることがある…これが判例法理です。
この補償措置や「補償にかわる賠償」は政策変更のコストであり、私利私欲追及などの自治体への背信がない限り、首長に転嫁することはできません。首長個人への転嫁は、住民自治や民主主義の自己否定を意味するからです。
では、政策変更がなければ、個人への転嫁が野放図に認められるか。そうなれば、住民自治は日常的に掘り崩されることになります。
本年4月20日の神戸市事件最高裁判決は、自治体が行った補助金支出の実質的意味に着目して首長の過失を否定しました。補足意見では、首長の責任は私利私欲追及などの場合に限定すべきとされています。
政策変更をめぐる判例法理や神戸市事件・最高裁判決の見地からして、本件で転嫁すなわち求償が認められることはあり得ない。
これが第1章の結論です。
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