平成23年(ワ)第40981号 損害賠償請求事件
原告 国立市
被告 上原公子
意見陳述要旨
2012年5月17日
被告訴訟代理人弁護士 杉浦ひとみ
東京地方裁判所民事第2部 御中
法的評価として違法性の観点について述べます。
まず、違法性か否かは、端的に、市長の裁量権の著しい逸脱や、自治体の持つ法規範に反する場合です。国立市の法規範は、憲法、地方自治法、都市計画法、建築基準法などを受け、具体的には「国立市開発行為等指導要綱」(乙A21以下「要綱」)、「国立市都市景観形成条例」(乙A13。以下「景観条例」)、「国立市都市計画 中三丁目地区計画」(乙A34。以下「地区計画」)、「国立市地区計画の区域における建築物の制限に関する条例の一部改正」(乙A51。以下「地区計画条例」)をさします。
原告が「被告の違法行為」として4つの行為を指摘しますが、第2行為として指摘されるものが、「20m以上のマンション建築の許否」という争点に中心的意味を持ちます。しかし、先に述べた法規範に当てはめたときには、この第2行為としてあげられるもの、すなわち、明和地所に対する事前協議の要請、周辺建築物や20mのイチョウ並木との調和のため本件建物を低くすることなどの指導、標識の撤去要請、建物の高さを20m以下に制限することを柱とする地区計画の告示・施行、マンションの建築確認申請の取り下げ要請など、いずれも違法とはいえません。
国立市には市民の意思に基づく「景観形成」という要綱や景観条例がありました。本件マンション建設に際しては、議会が地区計画条例までつくったのです。被告が取った行動は、住民の意思実現に他ならないのです。
さらに、原告は要するに、政策変更の違法性を指摘していますが、最高裁が示した基準によっても、原告は何ら法的保護に値しないものであることも明らかです。
以 上
平成23年(ワ)第40981号 損害賠償請求事件
原告 国立市
被告 上原公子
意見陳述要旨
2012年5月17日
被告訴訟代理人弁護士 齊藤園生
東京地方裁判所民事第2部 御中
1 国賠法1条2項による求償の問題については、被告準備書面(1)89頁以下に述べています。
2 訴状および住民訴訟判決(甲1の1)の論理は、被告の第1から第4までの行為を違法とした上で、違法と評価できる基礎事実を被告は認識していたのだから、少なくとも重過失があり、国賠法1条2項の求償が認められる、とするものです。
この論理で考えるなら、首長は十分意味を認識しながら政策を実現していくのですから、その行為が国賠法1条1項で違法と評価されれば、ほとんどの場合2項が認められ、最終的には首長が責任を負うことになってしまいます。これでは首長の職責は果たせません。
3 国賠法1条2項の求償が認められる場合は限定して考えるべきです。
現代の公務では結果として違法と評価される公務があることも不可避というべきで、公務の中には違法な公務も内在的に含んでいるというべきです。そのなかで2項による公務員への求償が認められるのは、公務員の個人的事情に起因するといえる場合、つまり自治体への背信行為がある場合に限定すべきです。2項の適用場面を限定する考えは、本年4月20日神戸市事件最高裁判決千葉裁判長補足意見でも示されているところです。
被告の行為は、いずれも環境保全の市民の声を受け、市長としてその声を実現していった行動であり、何ら背信行為とはいえず、本件では2項の適用はないというべきです。
本訴訟では、国賠法1条の趣旨に立ち戻って2項の適用について、根本的に問いなおされるべきと考えます。
平成23年(ワ)第40981号 損害賠償請求事件
原告 国立市
被告 上原公子
意見陳述要旨
2012年5月17日
被告訴訟代理人弁護士 中村晋輔
東京地方裁判所民事第2部 御中
-
被告準備書面(1)38頁~84頁の第2章「本件で検討すべき事実関係」に関して、意見を述べます。
- 原告国立市の訴状及び住民訴訟判決(甲1の1)は,第1行為から第4行為を違法かつ有責なものであると指摘しています。しかし、原告国立市の訴状及び住民訴訟判決は、各行為の間に生じている重要な事実の検討を怠り、あまりに一面的な見方に基づいて、一部の行為を取り上げただけです。被告は、地権者、市民、国立市議会、国立市都市景観審議会、国立市都市計画審議会の意向を踏まえて、原告国立市の市長として、原告国立市の職員とともに、原告国立市の財産である大学通りの景観を守るために明和地所株式会社によるマンション建設問題に対処したものですが、この点について何ら検討がなされていません。また、明和地所株式会社が原告国立市の指導に従わず、原告国立市に対しても、市民に対しても、敵対的な態度をとり続けたことについても何ら検討がなされていません。
選挙で選ばれた国立市長としての政策実現・職務遂行過程の行為についての違法性や重過失の有無を判断するにあたっては、一部の事実をつまみ食いするのではなく、被告の国立市長当選までの経緯をも踏まえて、一連の具体的な事実を証拠に基づいて総合的かつ慎重に検討すべきです。
- とりわけ、原告指摘の第2行為の中の建築物の高さ制限を含む地区計画の決定と条例化の点については、地権者の82%の同意による地区計画制定の要望(乙A31,乙A3・103頁)、国立市都市計画審議会による地区計画の承認(乙A32・10頁)、地区計画の早期条例化に賛同する7万人の署名(乙A33、乙A2の1・12頁、乙A32・4頁)、さらには当該条例が国立市議会の議決を経たものであること(乙A37・20~21頁)を特に強調させていただきたいと思います。
以 上
平成23年(ワ)第40981号 損害賠償請求事件
原告 国立市
被告 上原公子
意見陳述要旨
2012年5月17日
被告訴訟代理人弁護士 田中 隆
東京地方裁判所民事第2部 御中
記
第1章について陳述します。
本件は、政策実行をめぐって責任を問われた国立市が、あろうことかその責任を首長個人に転嫁しようとする事案です。
住民に選出された首長は、住民意思を体して政策決定を主導し、政策実行にあたる権限と責任をもっています。景観保護を託された首長は景観維持と営業活動の間で中立ではあり得ず、諸方面への要請を含めて景観保護にあたることは、責任の履行ではあっても権限逸脱ではありません。
首長の交代による政策変更があれば、新首長による政策実行は一部関係者の利益と衝突します。政策変更は当然だが、関係者の信頼の保護が必要になることがあり、補償措置が講じられていないと「補償にかわる賠償」を命じられることがある…これが判例法理です。
この補償措置や「補償にかわる賠償」は政策変更のコストであり、私利私欲追及などの自治体への背信がない限り、首長に転嫁することはできません。首長個人への転嫁は、住民自治や民主主義の自己否定を意味するからです。
では、政策変更がなければ、個人への転嫁が野放図に認められるか。そうなれば、住民自治は日常的に掘り崩されることになります。
本年4月20日の神戸市事件最高裁判決は、自治体が行った補助金支出の実質的意味に着目して首長の過失を否定しました。補足意見では、首長の責任は私利私欲追及などの場合に限定すべきとされています。
政策変更をめぐる判例法理や神戸市事件・最高裁判決の見地からして、本件で転嫁すなわち求償が認められることはあり得ない。
これが第1章の結論です。